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2008年 10月 09日
黒部峡谷/下の廊下【付記】
最後にひとこと。今回の下の廊下トレッキングツアーをブログに記録しておくにあたって、いささか感傷的ではあるが、私の個人的な独り言として述べさせていただきたい。

去る5月に私たちの元同僚が黒部で遭難、消息を絶った。黒部川十字峡付近で流されたものと推定されている。有志による手を尽くしての捜索にもかかわらず、ザックなどの遺留品の回収だけで、依然として本人の消息は不明。状況から考えて、生存の可能性はないと考えられるが、ご家族の気持ちを思うとせめて遺体が見つかればと祈るばかりだ。

あれから5ヶ月あまりが過ぎた。今でも職場の仲間誰もが気にかけている。ことあるごとに思い出す。出来る事なら私も捜索に加わりたかったし、少しでも協力したかったが、結局何も出来ないまま時間だけが過ぎたのだった。そんな折、仲間の一人が今回のツアーの企画をぶち上げた。追悼登山、あるいは慰霊登山として。

生存の可能性が限りなくゼロに近いとはいえ、遺体が見つからないのに追悼とか慰霊という名目でツアーを組む事に違和感もあった。不謹慎だ。そういう批判めいた意見も聞こえてきた。でも、捜索に何の力にもなれなかった私たちには、なんとももどかしい複雑な気持ちがある。いったい何が起きたのか。どうしてこんな事になったのか。

いろいろ言われながらも、精力的に幹事役をつとめてくれたUD氏には心の底から感謝している。また力量不足のメンバーを含むパーティーが無事帰還できたのも、同氏のガイドによるものと思う。会社ではおちゃらけたいい加減なキャラだが、やるときはやるね。尊敬した。

冒険家でもクライマーでもないフツーの私たちにとって、それは理不尽な事だ。何の前ぶれもなく、一方的に友人を奪われてしまったのだから。しかし、彼が命を失ったと思われるその現場を訪れる事で、少なくとも私たちは事実を受け入れる事が出来たような気がする。自然の猛威を前に、人間なんてどうにも太刀打ちできないほど非力なものだということを否応なしに理解させられたし、同時に彼が自ら求めて彼の地に踏み込んだ以上、私たちはその運命を否定することさえできない。

彼は自分の業績を広く世間に知らしめたりする事にはまったく興味のない人だった。近い将来、世間から忘れ去られてしまうかもしれない。だけど、彼が生涯冒険野郎で、旅人で、何よりもほんものの自由人だった事を私は決して忘れないだろう。さようなら、ともさん。

by w_bunz | 2008-10-09 23:10 | 山遊


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